ボストンマラソンでは例え世界記録を走っても公式記録として認定されません。それはコースの開始点と終着点に大きな高低差があるため。つまり下りが多いとスピードが出やすいということから国際陸連公認記録にはならないのです。実際に2011年の大会では当時の男子マラソン世界記録を上回るタイムが出ましたが、世界記録とは認められませんでした。
下りが多いコースなら、他のマラソン大会と比べて速いタイムが出そうなものです。しかし実際に高速レースと呼ばれるのはベルリンやシカゴで、ボストンはタイムが出やすいコースとして引き合いに出されることはありません。それはいったいなぜでしょうか?よく語られるボストンの「心臓破りの坂」とは?
この記事では、ボストンマラソンのコースを攻略していきたいと思います。
コース全体図

コースマップはここから。
平地がほとんど無い
コースマップからは読み取れないですが、実際に走ると常にアップダウンがあり、平地と呼べる区間はほとんど無いそうです。
スタートは下り基調
後術の心臓破りの坂のインパクトが強すぎてあまり語られないのですが、実はボストンマラソンでは32キロ地点に到達するまでが要注意。ボストンマラソンはコース全体で見ると標高差が約マイナス140メートルで、この標高差のほとんどをスタートから25キロ地点までで下って消化します。例え世界記録となるタイムを出しても公式記録として認められない要因の一つが、この標高差によるもの。下り坂はスピードを出しやすいのでランナーにとって有利に働きそうですが、実は下り坂は平地以上にランナーの脚(特にスピードを制御する太ももの前側)に疲労とダメージを与えます。その下り坂特有のダメージを25キロに渡って脚に蓄積し続けるため、スピードが出るからと調子に乗ってこの地点までオーバーペースで走り続けたランナーは残りの17キロを思うように動かない脚に苦しみ続けることになります。
25キロ地点から登り
25キロ地点直後に一旦急な坂を下り、そこから4つの上り坂が立ちはだかります。Newton Hills(ニュートンの坂)と呼ばれるボストンマラソンの難関です。普段なら労せず登れそうな坂も、25キロも硬い路面を下り続けてその衝撃を受けてきた体には大変な試練。そして4つある坂の一番大きな坂が「心臓破りの坂」として一番最後に待っています。
32キロ地点で心臓破りの坂

ボストンマラソンで最も有名なのは約32キロ地点で立ちはだかる登り坂、その名もHeartbreak Hill(心臓破りの坂)でしょう。「30キロの壁」と言われるように、ランナーによってはこのあたりでハンガーノックを起こし、足を前に出すのが急に困難になります。下りを走って脚を酷使した上に、ハンガーノックで身体が思うように動かない、そのタイミングで一番の難所。ボストンは記録が出にくいのも無理はありません。
心臓を破られた後、ゴールまで再び下り
心臓をズタズタにされた後はゴールまで一気に下ります。この時点でまだ体力に余裕がある猛者はペースアップしてゴールまでビルドアップできるでしょう。逆にこの時点で脚を使い果たしてしまっているランナーには、この下り坂は着地する時の衝撃でフォームがバラバラになってしまい、ペースを上げるどころではないと思います。ここでスピードが制御できずオーバーストライド気味になると怪我のリスクが高まるので、落ち着いて歩幅を広げずピッチを上げる意識で走りましょう。
この最後の下りをペースを上げて駆け下りるために、どれだけ脚を残せるかがボストンマラソン攻略のカギとなりそうです。
攻略法
攻略法は大きく分けて、レース当日の戦略とレースまで準備があります。
レース当日の戦略
下りでペースを上げすぎない
スピードが出るからといって、最初の25キロの下りでペースを上げすぎてしまうと後でしっぺ返しを食らいます。この時点ではまだ脚を温存することを強く意識して、目標タイムに対する貯金を作ろうと焦らないことが重要です。
スタート付近ではとにかく落ち着く
ボストンマラソンのコースはボストン郊外の少し田舎な場所から始まるため、都市部と比べ道路が狭いです。そのためスタート直後の道路はびっしりとランナーが横並びになり、抜かそうとしても至難の業。ある程度走って道路が広くなり、集団がバラけてくるまであまり前の人を抜かそうとして無駄なエネルギーを使わないことです。ボストンマラソンは上級者が多い上、あなたの周りのランナーは同程度のタイムでエントリーしているはずなので、最初の方は集団に連れて行ってもらうくらいのつもりでリラックスして走りましょう。
応援してもらう
ボストンマラソンをボストンマラソンたらしめるものは、地元の人達の応援だと言われます。応援を受けると主観的な運動強度が下がると言われますので、これを味方につけない手はありません。
レース中の歓声は全て自分に向けられていると思って良いのですが、自分の名前を呼んでもらえるとよりやる気が出るものです。観客に見えるように自分の名前をシャツなどに書いておけば、その名前でしっかり応援してくれるそうです。しかし日本人の名前はアメリカ人には発音しにくい場合も多いので、工夫が必要です。私の名前はマサトですが、レース当日は「MASA」とシャツに書いて力を分けてもらう予定です。
トレーニングの方針
トレーニングでは必ず上り坂と下り坂を速いペースで走る練習を取り入れましょう。公式ウェブサイトに掲載されているトレーニングプランにも、坂道を駆け上って休憩、駆け下りて休憩というインターバルが散見されます。坂を速いペースで昇り降りする事に体を慣らしておくことが、ボストンマラソンを攻略する上で重要なポイントとなります。
下り坂を速く駆け下りるのは怪我に繋がりやすく、慎重に行う必要があります。駆け下りる距離やインターバルの本数を増やす場合は平地での練習よりゆっくりと行いましょう。また、下り坂で酷使される筋肉や体幹を補強するトレーニングを入れることも効果が期待できます。大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋群を中心に鍛えられる種目を日々の練習に組み込みましょう。
歩く場合
最後まで登り切れず、どうしても歩いてしまう場合もあるでしょう。30キロの壁+上り坂の苦しみは精神論でなんとかできるものではないので、無理せず歩くことも選択肢の一つです。ただし歩く場合は後ろに続くランナーを考慮し、出来るだけ脇にそれてから歩きましょう。コースの真ん中で急に失速すると後続のランナーと衝突する危険性がありますし、最悪ドミノ倒しが発生してしまいます。
まとめ
ボストンマラソンのコースは下りが多くて楽なコースと思いきや、ある程度コースの難所を把握してから臨まないとひどい目にあう上級者向けのコースと言えます。出走にかかる費用のページでも書いた通り、日本の市民ランナーにとってボストンはそう何度も挑戦できるものでないと思います。一生に一度の挑戦となっても悔いのない走りができるように、トレーニングとレース運びは冷静に進めてください。


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