マラソンの起源について、一度は聞いたことがあると思います。マラソンは紀元前にフィリッピデスというギリシャ軍兵士がペルシアの大軍との戦いの勝利を報告するために、戦場のマラトンから約40km離れたアテネまで走ったという伝説に由来しています。勝利の報告後、使命を果たしたフィリッピデスは力尽きてしまい、彼を偲んで、約40kmを1896年の第1回オリンピックで走ったのがマラソンの始まりです。
この伝説がどこまで本当なのかは今でも意見が分かれるらしいですし、フィリッピデスは鎧フル装備のまま走ったらしいので普通に走るよりもっと過酷だったのでしょう。しかし一つだけ確かなのは、これほどの長い距離を走るという行為は何かを間違うと命に関わるということです。
この記事ではボストンマラソンでも実際に起こった低ナトリウム血症という悲劇と、その防ぎ方を解説します。
2002年大会で起きた悲劇
シンシア・ルセロ(Cynthia Lucero)さんは2002年のボストンマラソン走行中に体調を崩し、病院に搬送され治療を受けたが間に合わず、28歳の若さで亡くなりました。一緒に走っていた友人達によると、彼女は大量のゲータレード(スポーツドリンク)で給水し、前半は体調が良さそうでした。しかしある時を境に突然体調を崩し、友人に脱水のような感覚と脚が動かない感覚を訴えた後、倒れて気を失ってしまいました。そして病院に運ばれた後、亡くなりました。
医師の見解
彼女の死因は単純に水分を多く摂りすぎただけでなく、体内のエネルギー源であるグリコーゲンの量が下がる事でトリガーとなりホルモンが分泌され、そのホルモンの影響で体内ナトリウムのレベルも下がったのではないか、と指摘されています。
私は医学的知識がほとんどないのでうまくかみ砕いて説明する事ができませんが、要するに彼女の死の原因である低ナトリウム血症には単純な水分過多だけではなく、他の要因も複雑に絡み合っているらしいです。ホルモン分泌量には個体差もあり、一重に水分過多だけで死に至るという単純な話ではないようです。
低ナトリウム血症の予防
シンシアさんの件で驚きの点は、彼女が水ではなくナトリウムを含むスポーツドリンクを飲んでいたという事実です。一般的にスポーツドリンクは汗で失われたナトリウムなどの電解質を補給できるようになっているはずです。それでも体内のナトリウム濃度と比べれば水に近いため、飲むペースが速すぎると低ナトリウム血症になってしまうのでしょう。
さらに信じ難い点は、彼女が28歳でマラソンランナーという健康体であったことです。ボストンマラソンが人生二回目のフルマラソンだったそうなのでマラソンの経験値は多いとは言えませんが、フルマラソンを完走できるだけの体力はあったはずです。そんな人が症状がかなり進行するまで自覚症状も感じず、そして症状が悪化しても応急処置で対応しきれない。これは本当に怖いことだと思います。
ここまで重度の低ナトリウム血症はとても稀なことです。130年近くほぼ毎年開催されているボストンマラソンですら低ナトリウム血症で亡くなったのは彼女一人だけです。しかし、脱水症状ではまだ一人も亡くなっていないのも事実です。既述のように個体差があり大抵の人は問題ないと思いますが、以下の事にはくれぐれも注意を払ってください。
必要以上に水分を摂らない
レース前はカーボローディングやウォーターローディングをする人も多いと思います。ウォーターローディングはもちろんの事、カーボローディングも体内に貯蓄するグリコーゲン1に対し水4が取り込まれると言われており、体内はいつもより水で満たされた状態になります。
レース前にローディングする目的の一つは、レース中に摂取しなくてはならない量を減らすためです。レース前にしっかりローディングしている人は、レース中はその蓄えた分を使っていくイメージでレースを進めましょう。闇雲に水分を投入し続けるのは危険です。
「飲めば飲むほど良い」と思い込んでいる人は要注意
現代人は水を飲む量が足りない、もっと水を飲め!というメッセージを素直を受け、常に水筒を携帯し水をがぶがぶ飲んでいる人を時々見かけます。普段の生活において水を大量に飲むことの弊害はトイレが近くなることくらいですが、マラソンレースとなると話は別。発汗と水を飲むことのダブルパンチでナトリウム濃度がどんどん薄まります。
普段から沢山水を飲む癖がある人は特に注意しましょう。
体の危険信号を無視しない
シンシアさんの場合、一緒に走る友人に症状を訴えた時点ではもう手遅れでした。しかし、その前に何らかの自覚症状はあったのではないかと思います。吐き気、目まい、頭痛など、症状を自覚していても無視できる軽度のものであったため、彼女は走り続けてしまったのではないでしょうか。
マラソン中はハンガーノックという「エネルギー切れ」の症状が出る事も多く、どの症状が出たら棄権してどの症状なら走り続けられるかというのは判断が難しいです。でも自覚症状が出ても「無視する」という一択しかない場合と、「ペースを落として様子を見る」という選択肢も持っている場合では結果が全く違ってくると思うのです。
苦しいのを我慢して走るだけがマラソンじゃありません。危険信号を感じたら対処できる心の余裕を持ちましょう。
まとめ
伝説では古代ギリシャで最初にマラソンを走った兵士は力尽きてしまいましたが、私たちはマラソンを完走した後も人生が続きます。どんなマラソン大会も命を懸けて走るほどの価値はありません。
水分は足りないと悪影響があるのはもちろんですが、過剰に摂取しても問題があります。自分に必要な量を見極め、レース中は足りない分を補給するだけに留めましょう。
皆さんが笑顔でボストンマラソンのフィニッシュラインを跨げますように。
Comments
Greetings! Very helpful advice in this particular article! Its the little changes that produce the largest changes. Thanks a lot for sharing!
I’m glad you found it helpful! Thank you for leaving a comment 🙂